ねじの正しい使用方法と注意事項

 

1)適材適所のねじ選び

 

ねじの選択は使用される用途や、締付け物、被締結物、締結後の使用環境により大きく変わります。

使用条件を満足する、材質、精度、強度、表面処理等及び外観又、コストや作業性もねじ選びの大きなポイントです。

 

2) 適正な締付け

 

ねじの締付けの問題点

締付けに係わるトラブルの原因で締付}ナ不良によるゆるみが一番多く、カンや経験から何となく締付けが容易に扱われて

いる事が多い。

 

@締付け力は大きいほどよいが、ねじ及び被締付け物が損傷してはならない。

締付け不足又、締め過ぎてもねじ緩みが起きたり、壊れたりします。

被締付け物の接触面が損傷し締付け力が時間とともに減少(ゆるむ)する。

ねじ及び被締付け物の材質、強度、潤滑、嵌合長さ、などに応じた適正な締付けが大切です。

 

A締結部分に外部から荷重(振動や衝撃)が作用する事が多い。

イ) 振動が激しい箇所に使用する時は充分なゆるみ止めを又ねじは初期緩み(締付けてしばらくすると緩む)等が有りま

すので定期点検をして緩みを見つけたら締め直し(増し締め)をして下さい。

口) 疲労破壊(基礎知識37ぺ一ジ参照)に対する検討が必要です。疲労強度を計算しておく必要があります。

 

B温度の上下が激しい、膨張係数の違う材質、被締結物がアルミニウム合金やプラスチックのときや締結面が、塗装され

ている時などは、緩みやすいので注意して下さい。

 

Cねじの表面処理・材質・ねじの精度・ねじのピッチ・潤滑状態等で、はめ合い固さ加減や接触面のすべり具合で数値

を示す事が困難である。

 

D適正な締付け工具を選び使用して下さい。締付け方法や使用工具により大幅に異なります。又不適性な工具(摩擦

した工具)はねじの破損、怪我、締付け不足で、脱落の恐れが有ります。

 

Eねじの締付けは現在トルク法が多く使用され、この方法では、作業性に優れた簡便法であるが、締付け力にばらつき

がどうしても発生する。   (他に、トルク勾配法・回転角法・伸び測定法などが有ります)

 

    上記のように適性締付け力(締付け力の適正値)の決定には多くの要因があり複雑です。画一的に決定する事は困難で

   すが、次のぺ一ジの締付けトルク計算方法を参照下さい。

   又、計算した結果は強度区分別のねじの最大締付けトルクをあくまでも目安として参照下さい。

(計算方法@式による)

 

3) 締付けトルク計算方法

 

◆締付けトルク計算方法:一般には@式をA式に置き換えて締付付トルクを決定する。

 

@ Tf = K×d×P

Tf:最大締付けトルク

K:トルク係数(ねじ面、座面、などの摩擦係数により変動する。 (表1)参照

d:ねじの呼び径(cm)

P:締付け軸力(sf)  1sf≒9.8N

(耐力×有効断面積×0.7)

 

A T = 0.35×k (1+1/A)×6y×As×d

Tf:推奨締付けトルク

A:締付け係数(締付け方法や手具等により変動する。 (表2)参照

6y:下降伏点又は耐力

As:有効断面積

 

表1)  トルク係数(K)

 

表面状態

K

油潤滑の場合

0.17

無潤滑の場合

0.25

Znメッキの場合

0.24

 

トルク係数値:ボルト、ナットなどで品物を締め付けるとき、締め付けトルクの大きさは発生する軸力とボルトの呼

         び径の積に比例する。この比例定数をトルク係数値とする。

 

表2)  締付け係数Aの値 (Junker)

 

4) ねじ性能の維持

 

@    強度区分12.9のねじには電気メッキをしないで下さい。

べ一キング処理(水素抜き)を施してもいけません。

 

A強度区分10.9のねじに電気メッキをする場合は必ずべ一キング処理をして下さい。

 

B    強度区分10.9以上のねじには充分な防錆対策が必要です。

@ABいずれも遅れ破壊(時間経過後突然破断する)の危険が有ります。

 

Cボルトには溶接しないで下さい。

ねじ強度が低一下し破損したり、冷却後割損することが有ります。

 

D製品には後加工をしないで下さい。

ねじの特性や形状、性能が変わる様な表面処理、再熱処理、切削加工等をしないで下さい。品質、強度保証がで

きなくなります。

 

Eねじ締結部に大きな荷重が長時間作用する場合はねじを定期交換して下さい。

応力の大きさが弾性限度以下であっても繰り返し荷重が作用するとねじの破損(疲労破壊)することが有ります。

 

5) 使用に際して

 

@適正な温度範囲で使用して下さい。(JIS規格の機械的性質は常温15〜25℃における値です)

使用温度が高くなると引張り強さが低下して破断の危険が有ります。又、温度が低くなると靱性が低下します。鋼製

ねじは一50〜300℃で使用してください。

(基礎知識14ぺ一ジ参照下さい)

 

A    ねじの再使用や錆びたねじは使用しないで下さい。

一度使ったねじは品質、及び強度保証ができなくなります。

 

B    ねじ本来の使用目的(締結)以外には使用しないで下さい。

ねじの機能や安全性を損ねる事があります。ねじは締付けて使用下さい。

 

C    止めねじは、ナット掛け等、引張荷重が作用する使用はしないで下さい。

.止めねじが破損し、機械の故障及び人体事故を招く恐れがあります。

 

D    ボルトに勇断力(軸部に直角方向に働く力)や曲げ力が作用するような使用方法は避けて下さい。

ボルトは、本来引張力で使用するもので、勇断力で使用すると強度が低下します。

 

E    ボルト類は本来の目的である締結用以外の用途には使用しないで下さい。

ハンマーやバールなどの代用にすると割損して事故を起こす恐れがあります。

 

F取り付け、取り外しの際、工具をハンマーで強く打ち付けたり、スパナにパイプなどを継ぎ足して無理に力をかけないで

  下さい。

ボルトや工具が破損して人身事故、物損事故を招く恐れがあります。

 

G    十字穴に合ったねじ回しを使用して下さい。

不適切なねじ回しで締め付けると「ねじ」の十字穴を崩したり、締付け不良になったりします。

 

Hステンレス鋼は焼き付き易いので焼き付き防止加工等をして使用下さい。

 

Iステンレス鋼は高温の熱が加わると耐食性が悪くなりボルトが破損する恐れがあります。

特にオーステナイト系にクリーブ現象や粒界腐食が起き易く、又マルテンサイト系は脆くなります。

 

6)保管及び取り扱い

 

@    鋼製のねじは温度の高いところは避けてください。又ケースの破損のないように保管して下さい。

ホコリや湿気が多いと錆び易くなり、締付け不良や遅れ破撃の原因になります。

 

A    保管時は荷崩れのないように又商品の取り扱いや運搬時に衝撃を与えないで下さい。

荷崩れで怪我をしたり、又運搬時にねじに打痕の発生することが有ります。

 

Bねじの御使用に際してはJISハンドブック、カタログ、取扱い注意事項等を確認の上安全に注意して取り扱って下さい

 

ボルトの疲労破壊(疲れ破壊)について

疲労破壊とは、静荷車を受けているボルトが、くり返し振動的な荷重や引張り荷重、曲げ荷重を受ける時、荷重の大

きさは弾性限度以内であってもこの回数が非常に多くなると、その後ボルトが突然破断する現象をいいます。

 

原  因

ボルトがくり返し振動的、変動的な荷重を受けている内に、その一部に非常に微細な亀裂がはいり、この亀裂が荷重

のくり返しにつれて徐々に拡大して行き、局部的な破壊となり、これが進行し・荷重に耐え切れなくなり急に瞬間的に破

断する。

ボルトの疲労破壊は、殆どがねじ部で発生し、特に首下からの第一ねじ山部の応力集中を受ける部位での破断が

発生しやすくなります。又締付け力が低かったり、ボルトがゆるんだりすると、ボルトに加えられる外力が大きくなり、その値

がボルトの疲れ限度を超えると、疲労破壊を起こします。

 

対策と注意

イ)   適正締付けによって正しくボルトを締付ける。

 

ロ)   ねじ山の熱処理後の転進。(エンジン用ボルトに多く使用されている)

 

ハ)  ボルトの首下Rを可能な限り大きくする、ねじ山の切り上がりをなだらかにする、ねじ谷底のRを大きくする。

 

ニ)   太径のボルトを少ない数量で使うよりも出来るだけ細かい径のものを沢山使用する。

 

ホ)  同じ径のボルトを使用の場合、細目ねじを使用する。

 

へ) おねじとめねじのはめ合い長さ(ねじ込み長さ)を長くする。

 

ト) 一定時間経過後にねじを交換する。

 

ボルトの遅れ破壊について

遅れ破壊とは、静荷重を受けた状態でのボルトが一昼夜、あるいは何年又は、十数年経過したのちにボルトが突然

破断する現象をいいます。

これはボルトに作用する力が一定の時に生じるのですから、疲労破壊ではありません。

 

原  因

基本的には材質の脆化現象によるものであり、その脆化現象は、水素脆化によるものと考えられています。一般に高強

度ボルト(炭素量の多いボルト)ほど脆化性が大で注意が必要です。

ボルトの不完全ねじ部、首下の第一ねじ山部、首下の丸み部などの応力集中を受けやすい部位での破断が発生しや

すくなります。

 

イ)   ねじのメッキ前工程の酸洗工程、また塗装、燐酸処理の前工程の酸洗処理で生じた水素が侵入する。

 

ロ) 大気中の酸性雨や海岸での塩分の影響(鉄と反応して水素が発生し侵入)による破断対策と注意遅れ破壊の

  起因となる水素は、外部から侵入した水素によるものと考えられていますので、外部からの水素の侵入阻止、また

は侵入した水素を除去する。

 

対策と注意

イ) 電気メッキやその前処理の酸洗工程で水素が侵入するため、処理時間を短くしたり、メッキ後、鋼中の水素を除去す

るため脱水素処理(べ一キング処理)を行う。又処理を施しても、メッキの方法により、時として遅れ破壊が起きる可能

性があるため12.9強度区分のボルト類には電気メッキは施さず、10.9強度区分以下としています。

 

ロ) 外部環境からの水素侵入阻止のために塗装や油塗布など十分な防錆処理を施し、遅れ破壊の発生をしにくくします。