ステンレス鋼製ねじについて

 

ステンレスボルト、小ねじ、タッピン等各種ねじは、耐食性が要求される用途の他に装飾用・耐熱性・耐寒性が必要

な用途まで、広く多くの需要があり、水道・浄水場、厨房・病院・理化学機器・通信機器・圧力機器の締結部など

多方面に渡って使用されております。

 

ステンレス鋼とは

鉄に12%以上のクロムと他元素(ニッケル・モリブデン・チタン等)を添加し、耐食性・耐熱性を向上させた合金鋼です。

一般には大気中で自己不動態被膜を形成し、錆びにくさを維持しています。ステンレス鋼は金属組織により、オーステ

ナイト系・フェライト系・マルテンサイト系の3種類に大別されます。また添加元素の配合により数多くの種類があり、耐

食・加工・磁性等それぞれの特性が強化されています。そのため、使用環境・用途・加工法に適した特性のステンレス

鋼を幅広く選択することができます。

 

 

1) ステンレス鋼の分類

 

@オーステナイト系

 

鉄 (72%)

ニッケル (8%)

クロム (18%)

その他

 

・18Cr-8NiクラスつまりSUS304・SUSXM7・SUS316等Cr、Niの合金です。

ステンレスねじを海水に長期間浸せきすると、局部腐食または点食が発生しますが、クロムの多いほど耐食性が

 良く更にMo添加したSUS316が優れた耐食性があります。

・焼き入れによって硬化はしませんが、冷間で塑性加工を施すことにより硬化させることができます。

・溶体化処理(1100℃程度まで加熱後急冷する)によって延性・耐食性を良くします。

・一般的には非磁性(磁石につかない)素材ですが、冷間加工後に多少の磁性を示すことがあります。

 

 

 

Aフェライト系

 

鉄(80%)

クロム(18%)

その他

 

18Crに代表され、マルテンサイト系と同様Cr系合金ですが、高温から急冷しても硬化しません。

高Crステンレス鋼は、475℃近傍で長時間加熱保持した場合、もろくなり加工中に割れを生じやすく注意が必

 要です。

熱処理により硬化しないため、焼きなまし状態で使用され又、加工性、伸延性に優れています。

強磁性(磁石につく)を示します。

 

   

 

Bマルテンサイト系    

 

鉄(80%)

クロム(13%)

その他

 

13Crに代表され、焼き入れ硬化性のため焼き入れ・焼き戻しをすることにより、高強度・伸延性及び靱性を得るこ

とができます。

大気中で加熱した場合の耐酸化性が良く、500℃までの温度に耐え、耐熱用としても使用されます。

溶接は焼き割れを生じやすいので注意を要します。

強磁性(磁石につく)を示します。

 

 

注)表面状態及ぴ磁性

ステンレスねじ部品の表面は、金属的光沢をもち、機械的性質を損う表面欠陥があってはならない。

また、オーステナイト系ステンレス鋼のねじ部品は、一般に非磁性であるが、冷間加工後に多少の磁性を示す

ことがあるので、それを特に問題とする場合は、受渡し当事者間の協定による。

 

 

2) 主なステンレス鋼一覧

 

 

 

3)主なステンレス鋼の特性と用途例

 

分類

JIS 番号

特性と用途例

オーステナイト系

SUS 304

SUS XM7

SUS 304L

SUS302、の改良型であり、炭素量が少なく耐食性、溶接が良好なので高級ステンレス鋼として広く用いられている。SUS304Lは極低炭素なので粒界腐食を防止できる。溶接のままで耐粒界腐食性を必要とするところに用いる。ヒートサイクルを経験するようなファスナ一に利用。化学工業設備、建築材料、食品製造設備、製紙工業、車両工業、厨房器具など。

SUS 316

SUS 316L

 

Mo添加により耐食性、耐酸性が良好で高温強度が大。SUS316Lは極低炭素なので、溶接のままで耐粒界腐食性を必要とするところに用いる。SUS304より高級耐食用。ヒートサイクルを経験するようなファスナーに利用。石油化学工業、染色工業、繊維工業、食品工業など。

SUS 305

Ni量を増し加工硬化性を減少させたもの。冷間成型加工する部品に適す。

SUS 303

S、Pの添加により18Cr-8Ni鋼の被削性を改良したもの。ただし、耐食性はやや劣る。

Moの添加は耐食性を改善するためである。

SUS 301

 

SUS304よりCr、Ni量が若干少ないので加工硬化性が大きい。冷間加工によって高い引張強さを得ることができる。ばね、機械構造用など。

SUS 302

 

18Cr-8Ni鋼の基準型でNi添加により耐食性、機械的性質が良好。ただし炭素量が多いので加熱部品や溶接部には不向。一般用、化学、食品、刃物など。

SUS 201

 

18Cr-8Ni鋼のNiをMnとNでおきかえ、低廉化をねらった鋼。SUS301、SUS302に比較して耐酸性は若干劣るが、耐粒界腐食性は同等で、機械的性質は改良されている。

用途はSUS301、SUS302と同じ。

フェライト系

SUS 430

 

18Cr鋼の基準型で冷間加工性、耐食性がよく、価格が低廉なので広く使用されている。

かしめ性、折れ曲げ性が良い。建築材料、厨房器具、硝酸工業、一般家庭用器具など。

SUS 430F

 

S,Pの添加によりSUS430の被削性を改良したもの。ただし、耐食性、耐酸性などの性質はSUS430より劣孔ボルト、ナット・燃料噴射ノズルな&

マルテンサイト系

SUS 410

SUS 403

SUS420JIの炭素量を低減し、耐食性の向上と熱処理後の靱性を改良したもの。SUS403はSi,Crの成分範囲を小さくした高品質のもの。硝酸などに比較的強い。パルプ、刃物、ボルト、ナット、ジェットエンジン部品、蒸気タービン翼など。

SUS 416

 

S、Pの添加により13Cr鋼の被削性を改良したもの。ただし、耐食性は基準型より劣る。ボルト、ナット、気化器部品、バルブなど。

SUS 420J2

 

炭素量が高いので、熱処理により高強度が得られるが、耐食性は劣る。各種シャフト類、刃物、医療機器、プラメチック型、ばねなど。

 析出硬化系

SUS 630

SUS 631

SUS301にAlを添加し、析出硬化によって弾性限を高めた鋼。腐食環境てばね特性が要求される部品に使用される。

 

  粒界腐食:粒界及び粒界付近に沿った部分が腐食される選択的な腐食です。

オーステナイト系ステンレス鋼を400〜850℃に加熱されるか、この温度域で徐冷すると結晶粒界に

Cr炭化物Cr23C6が析出し粒界付近のCr濃度が減少し、耐食性が劣化するためです。

 

 主な元素記号

C

Ni

Si

Dr

Mn

Mo

P

N

S

A

Cu

Ti

炭素

ニッケル

ケイ素

クロム

マンガン

モリブデン

リン

窒素

硫黄

アルミ

チタン

 

 

4) ステンレスボルト・小ねじの機械的性質及び鋼種と化学成分 (JIS B 1054−1985)

 

@機械的性質

 

A鋼種及び化学成分

備考 (1)耐力は、永久伸0.2%における値とする。

    (2)オーステナイト系(A1、A2及びA4)の強度区分70及び80並びにフェライト系(Fl)の強度区分60の機械的

性質の値は、呼び長さ8d(dはねじの呼び径)以下のものに適用し、8dを超えるものには適用しない。

なお、その他の強度区分に対するこの表の機械的性質の値は、すべての呼び長さに適用する。

(3)A2一A4の鋼種には4.0%以下の銅(Cu)を含んでもよい。

 

 

5) ステンレス鋼の強度区分表示

 

 

6) ステンレス鋼ナットの機械的性質(JlS B 1054-1985)

 

※オーステナイト系(A1,A2及びA4)の強度区分70及び80に属し、ねじの呼び径が20mmを超えるもの並びにフェ

ライト系(Fl)の強度区分45及び60に属し、ねじの呼び径が24mmを超えるものに対する機械的性質の値は、受

渡し当事者間の協定による。

 

 

7) ステンレスボルトとナットのかじりや焼き付きの発生によるトラブルの原因と対応策

 

ステンレスの特徴と原因(特にオーステナイト系に多い)

例) A2(オーステナイト系でSUS304・SUSXM7)

1..摩擦係数がおおきくねじのかみ合い面で抵抗が大きくなる(普通鋼0.15に対し0.20以上)

2..熱伝導率が小さい(普通鋼の1/3程度)

その為に、ねじのかみ合い面で発生した熱が発散せず局部的に高温になり易く、焼き付きを起こす。

3..熱膨張係数が大きい(普通鋼の1.5倍から2倍近くあり熱に対して伸び易い)

4.その他に・ねじ精度が良い。

・ねじの締め過ぎ。

・ボルト、ナットにバリや切粉がある。

・締結面とボルト、ナットの摩擦面が平行でない。

 

以上の特質の要因が複数、あるいは相乗的に重なり合い、かじりや焼き付きが起こり易いものと考えられる。

(ステンレスボルトが焼き付くと絶対にナットを戻すことが出来なくなる)

 

焼き付き防止の対応策……焼き付きを未然に防止する。

発生原因に多くの要因があり、把握して対処することは、困難なので予防、保全的対処策として焼き付き防止

剤、主剤が二硫化モリブデンなどの潤滑剤が効果的です。各種のマシン油は殆ど効果ありません。

二硫化モリブデンが有する優れた耐熱性が焼き付きを防止します。(1200℃まで融溶しません)