表面処理について
1) 電気メッキの注意点と対応策
最近ねじ類にも耐食性、装飾性等め目的のためにメッキを施すことが多くなりましたが、ねじは種々の材質から作られ、
ねじ部品に要求される機能も多岐にわたり、耐食、装飾価値を考え、なお、工業的な目的を果たす品質・性能を十
分に満たす必要があります、中でも実用的に最も広く利用されているメッキは、そのほとんどが「電気メッキ」と呼ばれて
いるものです。
@ 水素脆化(性)の問題
メッキ加工された商品は、大なり小なり水素ガスの影響を受けます。特に硬度の高い、引張り強度の大きいスプリ
ング材とか、高強度のボルト・ナット等では酸洗いや、メッキ洛中に発生する水素が鋼中に侵入し、水素分子とな
り素材を脆くし、割れの原因となります。これを水素脆化といいます。
〔対応策〕
・前処理の酸洗いは、できるだけ塩酸で行い濃度を薄くして必要時間以上の浸漬を避ける。
・メッキの際に電圧を下げ時間を長くします。
・べ一キング処理を施します。(水素抜き)
メッキ後30分以内に約180〜200℃で2〜4時間位加熱して鋼中の水素を放出させる処理。
(加熱温度と時間は材質・硬さ・メッキ時間と膜厚・酸洗い時間と濃度等により異なります。)
(注) 強度区分12,9の六角ボルト及び六角穴付きボルト等には電気メッキはしないで下さい。遅れ破壊の危険
が有ります。
基本的には強度区分10.9以下とし、べ一キング処理(水素抜き)を行って下さい。
Aメッキ厚の問題と有効径
メッキは、厚すぎるとねじの機能を果たさなくなるので注意を要します。
イ)メッキ厚のバラツキ・各々1本のボルトの頭部・ねじ山・ねじの谷底・ねじの先端などでメッキ厚のバラツキはかなり
の差が出てきます。
口)長いもの(特に長さ150mm以上)のメッキ加工では、両端のメッキ厚が厚くなり過ぎる事があります。
〔対応策〕
・メッキ前のねじ有効径はできる限り規格公差の下限近くに作り、メッキが厚めになった時でも有効径上限値を超
・えないように、配慮する必要があります。
B 打痕の問題
大きな径(特にM24径以上)のボルトでは、メッキ工程中に打痕の発生する事があります。他にも打痕の発生する
原因として、梱包作業時の取り扱いや、商品の運搬の際に生じる場合があります。
〔対応策〕
・手吊り(タコ吊り)でする。
・回転を遅くしたり、小さなものと混ぜてする。(多少傷がつく)
・取り扱いは.、衝撃を与えないように丁寧にする。
Cメッキの乗り難い商品の問題
薄くて重なりやすいものでは、重なった部分にメッキがつきにくい事があります。
〔対応策〕
・1回の量を少なくし、回転を遅くしてメッキする。
2)各種メッキの概要
@主なメッキの種類と特徴
A電気亜鉛メッキの種類・等級及び記号(JIS H 8619-1991)
*一般品は2級相当のメッキ加工品です。
A
電器亜鉛メッキの処理工程
Bニッケル及びニッケルクロムメッキ
・ニッケルメッキだけしたものは、長い期間を過ぎると変色するので装飾のためには、その上にクロムメッキを施してい
る。
・光沢ニッケルを利用すれば高度な光沢と平滑性に富み、皮膜は固く傷がつきにくく、美しい。
・クロムメッキ層が上にあれば、高級感のある装飾品に利用される。
・鉄素材の防錆と外観美の保持のために
イ 銅→ニッケル→クロム
ロ ダブルニッケル(二重ニッケル)→クロム
ハ トリニッケル(三重ニッケル)→クロム
などがあるが、銅は公害の規制金属でもあるのでダブルニッケル、トリニッケル法が徐々に増えています。
処理工程(イの場合)
(水) (水) (水) (水) (水) (水) (水)
前 処 理 → 銅ストライク
→ 弱酸浸漬 → 銅メッキ → 弱酸浸漬 → 光沢ニッケルメッキ
→ クロムメッキ → 乾 燥
*(水)は水洗い
Cブロンスメッキ
・銅ブロンズ(G・B)・・・・・銅メッキ後黒染し、それをはがしたもの。(アンチングカッパーとも言う。)
・真鍮ブロンズ・・・・・・・真鍮メッキ後黒染し、それをはがしたもの。(アンチングブラスとも言う。)
・C・C・・・・・・・・・・・・・・真鍮メッキ後茶染し、それをはがしたもの。
・ニッケルブロンズ・・・・・・ニッケルメッキ後黒染し、それをはがしたもの。
その他にAB黒・・・真鍮メッキに黒染
Br (ブロンズ)・・・銅メッキに黒染したもの等があります。
各々の色が微妙ですので、注文の際は色サンプルで色を確かめて下さい。
処理工程(銅ブロンズの場合)
(水) (水) (水) (水) (水) (水) (水) (水)
前 処 理 → 銅ストライク
→ 弱酸浸漬 → 銅メッキ → 酸活性 → 着 色 →
ヘアーライン
→ 乾 燥 → クリア塗装
*(水)は水洗い
D溶融亜鉛メッキ(ドブメッキ・天プラメッキ)
*摩擦接合用高力ボルトはHDZ55のメッキ品です。
*一般のボルト・ナット・ワッシャーはHDZ35のメッキ品です。
・亜鉛を鉄曹(低炭素鋼)に入れ、加熱し450℃付近で溶融し、その中に洗浄した品物を一分間前後浸漬すると亜鉛
皮膜がつきます。
・メッキ付着量の多いものほど、耐食性が優れ製品寿命も長くなります。
・耐食性は電気亜鉛メッキに比較して厚さが圧倒的に厚いので長時間の耐食性があります。
(注)溶融亜鉛メッキを行うと軟鋼板は変形しやすい、又熱処理製品(焼入れ、焼もどし)はメッキ温度が高熱のため、
熱処理効果に影響を与えますので注意して下さい。
処理工程
脱脂ショット加工 → 酸
洗 → 酸洗・水洗 → フラックス処理 → 乾 燥 → メ ッ キ
→ アンモニア処理 → 冷 却 → 完 成
Eダクロタイズド処理
金属亜鉛末と六価クロム化合物を主成分である処理液(ダクロデイプ)を金属表面に塗装し焼き付け(270〜330℃)を行
って6価クロムが3価クロムに還元され、高い耐食性を持つにぶい亜鉛色の皮膜を形成します。
特長
イ排水公害・大気汚染など、公害の発生が少ない。
ロ水素脆化の恐れはありません。
酸洗・電解処理が工程になく、高強度部品に施しても心配がありません。
ハ耐塩水噴霧性が優れています。
ニ耐熱・耐食性に優れています。
電気メッキでは100℃を超えると皮膜が破壊して急激に性能劣化しますが、ダクロタイズド処理は250℃前後でもその
耐食性は保持します。
ホつき廻りが優れています。
形状に関係なく均一な被膜が得られます。
ヘ塗料との密着性が優れています。
(注) )焼き付き温度が約300℃の高温のため材質変化には注意が必要です。
処理工程
溶剤脱 → スケール落とし → シャワー水洗 → 第一塗装 → 第一焼き付け → 冷 却 → 第二塗装 → 第二焼き付け → 冷 却 →
完
成
3)その他の表面処理
@ メカニカルメッキ(衝撃メッキ)
米国で開発されたメッキ方法で、鉄素地小物に亜鉛・錫・カドミウム・鉛及び各種の合金メッキを行うことができる。
(表面に金属皮膜のコーティングを行う)、仕上がりは梨地状で光沢性に乏しい。
水素脆化の心配が無く、耐食性は電気亜鉛メッキと同等です。
A 無電解メッキ(化学メッキ)
イプラスチックメッキ(プラメッキ)
電気を用いず金属メッキをする方法で、金属のほかに成形された樹脂類・セラミックなどにもメッキができます。
ロ無電解ニッケルメッキ(カニゼンメッキ)
ニッケルとリン(5〜13%)の合金メッキで、硬度が高く製品の深い穴・くぼみなど複雑な形状に対しても均一なメッキ厚
を施すことができる利点があります。
B ジンロイ(ZlNLOY)
亜鉛とニッケルの合金電気メッキで、従来の亜鉛メッキでは得られない、高レベルの耐熱、耐食性を得ることができ、光
沢クロメート、有色クロメートのほか、黒色クロメート処理も可能です。
C ジンロイKコート
ジソロイにさらにKコート(防錆コーティング)を施す。Kコートは、材質にステンレスを使用することなく鉄素材でもステンレス
高耐食性とステンレスに近い光沢を有する、ステンレス色表面処理です。
D 燐酸塩皮膜処理(パーカーライジング)
パーカー処理とも呼ばれ、燐酸亜鉛または、燐酸マンガンの黒灰色の化成皮膜を形成させる。
冷間圧造用と塗装下地の皮膜としては最適です。耐食性は、防錆油を塗っても不十分です。
E アルカリ黒色酸化皮膜(黒染)
アルカリ酸化ともいわれ、鉄素地を苛性ソーダの水溶液に酸化剤を入れ140℃前後に加熱処理し表面に四三酸化鉄
の黒色皮膜を生じさせる。
耐熱性・潤滑性・密着性は良いが耐食性は悪く、防錆油を塗布します。
F テンパーカラー
イ大気雰囲気法:焼き戻しの時に、鋼が空気中の酸素と化合して表面に酸化皮膜を形成させる。
ロ無酸化雰囲気法:焼き戻しをDXガス雰囲気中で行い、表面に黒色酸化皮膜を形成させる。
G 陽極酸化処理(アルマイト処理・アノダイズ・アルミライト)
アルミニウム及びアルミニウム合金に電解液中で陽極電流が通じると、表面に酸化皮膜を生成し耐食性・耐摩耗性を
高める。皮膜は多孔性なのでアニリン染料で染色することができます。
H パシペート処理(パシベーション)
加工や熱処理を施したステンレス鋼の表面に不動態化(自己不動態化という)皮膜を生成させるために処理液(硝酸)
水洗い等の方法で製品の油・錆び・スケール等の汚れを洗浄し除くことによりステンレス固有の耐食性を回復させ光沢
を出します。
不動態:金属が常態よりも貴金属性を帯びた状態にあることを言う。
例) 耐食合金には自己不動態をおこしやすい材料が多く、ステンレスは一般には(自己不動態皮膜を形成
により)大気中で錆びにくさを維持しております。
I キリンス
黄銅材製品を硝酸と硫酸の混合液で錆びや汚れを除去して、黄銅本来の美しい光沢を出す。光沢浸漬法、化学研
磨法ともいわれます。
J ラスパート
第一層に金属亜鉛層、第二層に高耐食性化成皮膜層、第三層にセラミック材を使った表面焼成層からなる防錆皮
膜のことです。一般的な表面処理のように単一物質による防錆ではなく、総合的に耐食性を向上させています。
K フッ素シルバー処理
アクリル、メラニン、他をべ一スにフッ素樹脂及びアルミペーストから成る特殊複合体染料を亜鉛メッキの上に焼成方し皮
膜を形成させたものです。染料成分中のアルミペーストは焼成によりフレーク状皮膜となり、亜鉛メッキと鉄素地を保護
します。また塗皮膜中のフッ素樹脂は潤滑性と撥水性があり、さび進行の最大原因である大気中の工場汚染物及び酸
性の湿分を除去し腐食の進行を抑制します。